令和2年度埼玉県公立高校入試 社会 レビュー

こんにちは。
公立高校受験指導専門塾
英泉塾中浦和校の佐藤です。

 

2020年2月28日、埼玉県公立高校入試の学力検査が無事終了しました。

受験生のみなさん、お疲れさまでした。

いよいよ3月9日、合格発表の日が近づいてきましたね。

入試も終わり、もどかしい日が続いているかもしれませんが、そんな日もあともう少しです。

 

今回、先週行われた埼玉県公立高校入試の社会のレビューを行っていきます。

問題構成は例年通り

今年の埼玉県公立高校入試の社会の問題構成は以下の通りです。

大問1 世界地理(15点
大問2 日本地理(15点)
大問3 歴史 江戸時代まで(15点)
大問4 歴史 明治時代以降(15点)
大問5 公民(25点)
大問6 総合問題(15点)

大問6題構成は、社会の試験時間が40分から50分へと伸びた平成29年度入試(2017年3月実施)から変更ありません。

各大問につき、最低1問は記述問題があるのも例年通り。

大問6題の配点も特に大きな変化はありませんでした。

地理、歴史、公民の3分野がバランスよく出題されている印象です。

各分野それぞれにおいてしっかり対策していないと、高得点は難しいでしょう。

それが埼玉県の社会の問題の特徴でもあります。

反対に、問題構成や配点に大きな変化がなかったので、埼玉県の過去問を繰り返し解いてしっかり対策できていれば、高得点を取れる可能性のあった問題ともいえます。

 

平均点は下がる可能性大

これまでの埼玉県公立高校入試の社会の平均点は以下のように推移してきました。

平成29年度入試(2017年実施)60.6
平成30年度入試(2018年実施)55.9
平成31年度入試(2019年実施)60.3
令和2年度入試(2020年実施)?点

近年の埼玉県公立高校入試において、社会の平均点は他の科目と比較して高くなる傾向にあります。

過去3年、平均点を科目別でみると、学校選択問題の英語が3年連続1位でした。

その学校選択問題の英語に次に平均点が高いのが社会です。(平成30年度は学力検査問題の英語と並んで2位タイ)

平均点が高くて何が悪いのかという話ですが、

結論から言ってしまえば、受験生の間で点数の差がつかなくなるのが問題です。

 

以下の点数をご覧ください。

埼玉県公立高校入試
平成31年度入試社会平均点60.3
県立浦和
合格者平均 91.8点 / 不合格者平均 84.7点
市立浦和
合格者平均 85.8点 / 不合格者平均 79.7点
川口北
合格者平均 80.1点 / 不合格者平均 68.9点
川口市立
合格者平均 79.4点 / 不合格者平均 69.4点
浦和北
合格者平均 74.5点 / 不合格者平均 64.1点
大宮南
合格者平均 69.8点 / 不合格者平均 57.7点

これらの点数は某教材会社調べによる、受験した高校別の合格者と不合格者の社会の平均点です。

偏差値がおよそ70の県立浦和の場合、社会の合格者平均が91.8点となっています。

平均91.8点なので、90点台後半がたくさんいることは容易に想像できますね。

市立浦和でも社会で80点だと、合格に向けては心もとないものとなってしまいます。

学力検査問題を採用している川口市立や浦和北でも、合格するためには社会で80点をとっておきたいところ。

偏差値がおよそ50の大宮南でも、社会では70点が必要です。

 

この資料からわかることをまとめると、

✓どの高校を受けるにしても、社会は高い得点での勝負
✓高い得点での勝負になるので、周りと差をつけにくい

ということになります。

 

平均点が高い→努力した分だけ点数に反映されやすい

とも言えますが、

社会で高得点が取れない→合格へ向けてかなり不利

ということも言えてしまうのです。

近年の埼玉県公立高校入試の社会に関しては、

高得点を取って当たり前、という状況が続いてしまっていたのです。

 

話を元に戻しましょう。

今年度の埼玉県公立高校入試の社会はどうか。

平均点は下がると予想します。

上にも書きましたが、問題構成等に大きな変化はありませんでした。

しかし、これは受験生は悩むだろうな、という問題がいくつかありました。

県立浦和や浦和一女、大宮といったトップ校は例年通り、社会では合格ラインが90点近辺になると予想しますが、

そのほかの多くの学校では合格ラインは下がるでしょう。

高得点を取って当たり前、という状況にはならないはずです。

 

大問4の難易度が高いか

これから問題ごとに分析していきます。

問題と解答は埼玉県教育委員会のページからアクセスできます。
※PCによる閲覧推奨

※雨温図や歴史の資料等で権利の問題があるため「掲載許諾申請中」とされているところがあり、少し見づらくなっていますので要注意です。

大問1 世界地理

問1は埼玉県公立高校入試ではおなじみの問題。毎年海洋か大陸が出題されます。昔はこれに造山帯も含まれていましたが最近出題されていません。

問2は落ち着いて地図を見て正しいものを選べたのではないでしょうか。赤道と本初子午線がそれぞれどこを通るかは受験前におさえておきたいですね。

問3は正距方位図法の典型的な問題。見た目に惑わされないようにしましょう。

問4は砂漠気候についての記述問題。といっても珍しい問題ではありません。砂漠気候がどういった気候かを覚えていなくても、雨温図と資料がヒントを示してくれています。誘導も比較的親切でした。

問5は表から読みとれる内容を述べた文として正しいものを複数選ぶ問題。割合をわかっていないと悩む問題です。全国的な傾向ですが、割合が絡むと正答率は低くなります…。

大問2 日本地理

問1は「やませ」を答える問題。問題を見た途端に解答欄に記入した受験生も多かったことでしょう。

問2は雨温図がどこの都市のものかを選ぶ問題。日本海側の石川県では冬に降水量多め、中央高地の長野は年間通して降水量少なめ、これを理解できていれば正解できます。

問3は語句+記述問題。この記述問題も典型的な問題。地図にヒントも載っているので自信を持って答えられたでしょう。ちなみに三角州と扇状地の区別は受験生にとって必須です。

問4は農産物の組み合わせとして正しいものを選ぶ問題。埼玉県→近郊農業→野菜、もしくは石川県→日本海側→米、といった連想ができるといいかもしれません。もしくは長野に着目して「Cが果実」と考えることもできます。この問題、手掛かりは多いですが、正答率は高くなさそうな気がします。

問5は地形図問題。5つの選択肢の中で2つ正解がこれまでの定番だったのですが、昨年度から2年連続で3つが正解となりました。各選択肢の内容は難しくありません。1つ1つ順番に考えていけば正解できるはずです。

大問3 歴史 江戸時代まで

問1は「卑弥呼」を答える問題。空欄の前に、邪馬台国の女王、とあるのですぐにわかりますね。

問2はこれも埼玉県公立高校入試ではおなじみの問題。文化についての文と資料の正しい組み合わせを選ぶ問題。最澄や空海は平安時代の登場人物です。

問3は受験生を悩ませる問題の1つです。Xのローマ帝国の分裂は395年ですが、なかなか学校でもふれないところです。Yはフビライもヒントになるでしょうか。正答率は低くなるでしょう。

問4の出題パターンもおなじみです。キーワードを拾っていきましょう。アなら「豪族」や「公地・公民」、イなら「惣」といった具合です。これらのキーワードで、この選択肢が何時代のことを言っているのかを判断していくといいです。

問5も受験生を悩ませる問題です。法律の名称はわかるとして悩ましいのは記述です。「石高にふれながら」という問題文を読んで、「?」と思った受験生も少なくなかったはずです。採点基準は高校によって異なりますが、法律の名称だけでもきちんと書いて部分点をもらうのも1つの手でした。

大問4 歴史 明治時代以降

問1は並び替え問題。平成29年度入試から4年連続で、大問4の問1に並び替え問題が来ました。この問題、簡単ではないように見えます。

問2も難しい問題です。中華民国ができたときの中心人物と首都を問う問題です。中華民国の首都が南京だったことを知っていた受験生は少なかったと予想します。

問3は大問4の中では比較的解きやすい問題です。「1925年・普通選挙法・治安維持法・加藤高明」はセットで覚えておくと良いでしょう。どんな人に選挙権が与えられたかは、受験生であればしっかりおさえておかなければなりません。

問4も簡単ではありません。エで悩んだ受験生も多くいたと思います。小作争議が盛んになったのは大正時代後半のことです。覚えるべき年号ではありませんが、日本農民組合が結成されたのは1922年です。ちなみに第二次世界大戦後に農地改革が行われて小作人がかなり減ったということを考えても、エの選択肢が年表中Dの時期と合わないと予測できます。

問5は解きやすい問題です。「1972年日中共同声明・1978年日中平和友好条約」はセットで覚えておきましょう。

大問4は全体的に点数が取りにくい問題だったように感じました。この中では問3と問5が比較的取りやすい問題のように見えましたが、しかし問3は記述問題。したがって、正解して当たり前というわけにはいきません。大問4ではどの問題で点を取っていけばいいのかと戸惑った受験生も多くいたのではないでしょうか。

大問5 公民

問1は内閣が発足するまでのできごとを行われる順番に並び替える問題。この問題は難易度低めです。

問2は日本の裁判に関して述べた文として正しいものを複数選ぶ問題。ただひたすら覚えるだけの勉強では通用しない可能性大の問題です。「第一審→控訴→第二審→上告→第三審(最高裁)」という流れは受験生にとって必須の知識です。また、国が費用を負担して弁護人をつけられるのは刑事裁判のときのみです。どの選択肢も正しいように見えてしまいますが、1つ1つ選択肢を冷静に読んで判断していかなければなりません。

問3(1)は比例代表制のしくみを説明する記述問題。「得票数」と「議席数」という2つの語を使うように指示されているので、比較的書きやすかったのではないでしょうか。

問3(2)は新傾向問題ではないでしょうか。「一票の格差」を説明するために必要な資料を選ぶ問題。「一票の格差」に関する知識と資料それぞれの意味やメッセージを読み取る、2つの力が必要とされる問題とも言えます。こういった問題の対策が今後必要になってくるでしょう。

問4は「公正取引委員会」を答える穴埋め問題。「独占禁止法・公正取引委員会」はセットで覚えておきたいところです。この問題の正答率は高そうです。

問5は日本銀行の「銀行の銀行」という役割の意味を答える記述問題。公民の経済分野までしっかり勉強できているかどうかが問われる問題です。日本銀行の3つの役割をフレーズだけで覚えていると到底太刀打ちできない問題となっています。

問6は労働基準法とワーク・ライフ・バランスについて選択肢から答えを選ぶ問題。引っ掛けの要素がある問題でした。カタカナの用語に関する問題は全国的に近年出題されているので、しっかり対策しておく必要があります。

問7は2つの文の正誤を答える問題。介護保険制度は40歳以上の全国民が加入する制度です。

問8は「京都議定書」と「パリ協定」を答える穴埋め問題です。京都議定書は書けてもパリ協定が書けなかった受験生も少なくなかったはずです。

大問6 総合問題

問1は「ザビエル」をを答える穴埋め問題です。この問題の正答率は高そうです。

問2は難問です。バスコ・ダ・ガマの船隊の航路とポルトガルの植民地の組み合わせを選ぶ問題です。ポルトガルの植民地がブラジルだということは地理の勉強をしていても出てくる事項なので、知っている受験生も少なくなかったでしょう。ただ、バスコ・ダ・ガマの船隊の航路まできっちり覚えられていた受験生は少なかったのではないでしょうか。この問題の正答率は低くなりそうです。

問3はロシア革命やソ連に関するできごとの並び替え問題です。細かな年号を覚えていなくても正しく並び替えられる問題です。「冷戦の終結」や「日ソ共同宣言」など、各選択肢のキーワードを拾っていきながら考えましょう。

問4は1つの表にまとめられた資料を読み取って長崎県にあたるものを選ぶ問題です。こういった問題は全国過去問でもよく見られる問題です。丸暗記というより推理しながら解くような問題です。

問5はグラフもふまえた上で地方交付税交付金について説明する問題。あまり珍しい問題ではありません。しかしそもそも問題自体が難しいので、たとえこれまでの受験勉強で見たり解いたりしたことがあっても、正解することは難しいです。正答率は低くなるでしょう。

 

社会は受験直前に勉強すれば間に合うのか

埼玉県公立高校入試の社会の問題の答えは基本的に教科書に載っています。

大問3問5の「石高」にしても、大問4問2の中華民国の首都にしても、大問5問5の日本銀行の「銀行の銀行」にしてもです。

大問6問2のバスコ・ダ・ガマの船隊の航路にいたっては、1ページの内の3分の1以上のスペースをとって地図と併せて説明されていました。

※いずれの事項もさいたま市の公立中学校が使用している東京書籍の地理、歴史、公民の教科書を参考にしました。

乱暴に言ってしまえば、社会は教科書を丸暗記してしまえば入試で100点満点がとれるのです。

 

よく耳にする(もしくは目にする)のが以下のようなフレーズです。

「社会と理科は覚えさえすれば点が取れる。暗記科目だから」

たしかに今はその通りです。

ただその一方で、埼玉県も含めて全国的に、暗記量だけでは通用しない問題も増えてきているのも事実です。

今年度の埼玉県公立高校入試の社会の大問5問3(2)もその傾向を受けての問題であるように思います。

今回の大問5問3(2)の難易度自体は低いと言えますが、こういった問題で難易度が高い問題も将来出題されるでしょう。

 

こういった問題で通用するためにはどうすればいいのか。

その答えの1つとして、

用語や文の暗記だけにとどまらず、その言葉の意味(理由)まできっちり理解する

これが挙げられると考えます。

例えば地理で考えてみましょう。

今年度の埼玉県公立高校入試の社会の大問2問2は雨温図がどこの都市のものかを選ぶ問題でした。

「日本海側の石川県では冬に降水量多め」

「中央高地の長野は年間通して降水量少なめ」

この2つが問題を解くためのヒントとなりますが、

「日本海側だから冬に降水量が多い」

「中央高地だから年間通して降水量が少ない」

だけにとどまらず、

その理由まで踏み込めるのが理想です。

「なぜ日本海側では冬に降水量が多いのか?」

「なぜ中央高地では年間通して降水量が少ないのか?」

ここまでおさえることができれば、この手の問題で迷うことがないはずです。

そしてたとえ少しひねりを加えられた問題が出題されても、対応できるはずです。

もっと言うと、こういった「なぜ」を1つ1つ解消していけると、社会の勉強が楽しくなってくるはずです。

 

こういった「なぜ」を解消する勉強には時間がかかります。

ですので、

「社会は受験直前に勉強すれば間に合うのか」

と聞かれた場合、

「それは厳しいです…」

と答えざるをえません。

 

埼玉県公立高校入試の場合、

国語、数学、社会、理科、英語どれも同じ試験時間50分です。

またどの教科であっても満点は100点です。

国数英の3教科は1年(もしくは3年かけて)受験勉強するのに、理科と社会は受験直前だけの受験勉強だけでいいのでしょうか…?

良くありませんよね。

中学3年生になったら、理科と社会も1年かけて対策していく必要があるのではないでしょうか。

理科や社会の勉強法について詳しくはこのブログでまた日を改めて書きたいと思います。

 

最後に未来の受験生に向けてのメッセージを少し。

今は学校に通うことすら厳しい状況となってしまっています。

学校がないときだからこそできることがいくつかあります。

1つがこれまで取り組んできた社会の学校ワークのやり直し。

そして2つ目がこれまで解いてきた定期テストの解きなおし。

※解きなおしは100点満点になるまで何度でも!必要であれば教科書等で調べる!

これらに取り組むだけでも周りと大きな差をつけられるはずです。

そしてまた学校が再開されたら、学校の理科や社会の授業もきっちり聞いて、ノートに必要なことは書いて、と当たり前のことを当たり前にきっちりやりましょう。

(実はこれがなかなか難しいのですが…)

これらが受験勉強のスタートとしてなにより大切です。

日々の積み重ねがどれだけできるかです。

 

長くなりましたが令和2年度埼玉県公立高校入試の社会のレビューは以上です。

受験生のみなさん、本当にお疲れさまでした!

3月9日、いよいよ合格発表です。

入試まで必死にがんばってきた英泉受験生なら大丈夫!

自信を持って高校に行って、自分の合格番号を見つけてきてください。

「合格しました!」の声とともに塾に来てくれるのを待っていますからね。